第23回 不思議な仕上げと構造を持つ調教場の越屋根

ガウディ建築の教義とも言えるレウスにある手記から建築の演出手段として“装飾に関心を持つには、詩的アイデアを想起させなければならない。 目的は歴史的、伝説的、躍動的、象徴的、人間の生活における寓話、躍動と受難などである。そして自然を尊重し、動物王国、植物、地形を表現することもできる。また体の形態、表面、ライン、それら全ての構成における幾何学や美学の本質であるコントラストは、プロポ-ションの為に役立つ。 物が非常に美しくあるためには、その形は余分な物があってはならず、単に素材は、それ自体に与えられた条件に役立つものとして理解できる”として書き残している。

フィンカ・グエルの馬小屋の土間は、ピーリング仕上げとなっているだけで床裏の通気処理がされていないのか、壁に湿気とカビが耐えることがない。
現在はガウディ研究室として利用されているがそれにも関わらず腰壁部分に置かれている書類などは、かなり傷んでいるのが目についた。
ここで西側外壁に利用されている仕上げ材に注目すると、それは陶器のタイルではなくセメント・タイルであった。つまりプレファブ工法によるピースを利用した仕上げになっているのである。

破砕タイルをドームの外部仕上げ材とした調教場の越屋根部分は、不思議な構造体である。確かにドームの頂点では荷重ゼロに等しいが、そこに穴が空いても問題がないという事はローマのパンテオンでも既に知られている。
ところがガウディの場合は、その部分を採光とし、更に越屋根を載せている。
これはマシア(カタルニア民家の通称)によく見られる明かり取りと類似する。その荷重をどのように解決しているのだろうかということになる。
その越屋根部分の周囲には、3つの煉瓦造リングがついていることは既にpart21でも説明した。
ガウディは、基本的に無駄な装飾を省く方向で建築を検討していたことから、この煉瓦造リングも装飾的概念では取り付けられられていないということになる。
単に越屋根の破砕タイルの仕上げをするためのアクセスだけでもなさそうだということになる。
とすれば他に考えられるのはその越屋根の荷重の反力としての効果とボールト施工時の歪み止めということになる。
つまり越屋根の採光部の掃除をするためだけに解決したのではないのだろうということが考えられる。越屋根の鉛直荷重による反力をここで対応できるように考えたのだろうか。ガウディの建築の謎解きには必要不可欠な、自然物理的な理解と構造的理念の理解が必要である。
残念なのは、寸法は凡そ測れてもまだその構造力学としての裏付けができないままになっていること。

ガウディ建築の特徴として、破砕タイルのイメージが代表的な表現とされていることは知られたことである。
しかしこれは決してガウディだけのオリジナルではない。
ローマ時代やギリシャ時代からモザイク・タイルとしてのルーツが存在していることは勿論であるが、一方でガウディはさらにモダンな手法としてガラスや石の廃材を利用しての破砕の目地を曲面体で覆う。
これは カタラン語で“トレンカディス” (Torencadis)“破砕張り”という手法を利用している。

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この記事を書いた人

実測家、建築家・工学博士

バルセロナに住みながらガウディ建築物の実測とその図面化を行う。特にサグラダファミリアの実測図 (1/50 の断面アイソメ図)には5年、グエル公園の全体立面図には8年の年月を要した。実測の過程で、ガウディ建築に込められたデザイン・構造・神話、さらに地域性やアイデンティティを縦横に読み解いていく。その他、研究を生かして1998年からユネスコ・フォーラムの招請を受けてベラクルスのサン・ホワン・デ・ウルワ城塞修復計画ワークショップをする。以来、全国において、ガウディ、実測、 歴史、コード、作図についての説明を60回以上の展示会・講演会、まちづくりワークショップ活動と共に進めて現在に至る。特にガウディの煉瓦構造とその素材を生かした応用として北海道江別市のモニュメントBT1をはじめとして、ガウディの生誕の町リウドムスでのアルブレ広場では日本とスペインの特性を生かした改修計画、ガウディのデザイン手法を生かした東京都府中市の北山幼稚園のデザイン・設計施工を手がけた。2015年にはバルセロナ建築士会での田中裕也の作図展やサロンデマンガの作図展、続いて2016年には、初めて銀座の渋谷画廊にてガウディ建築の作図展を行った。





1952年9月30日北海道稚内市生まれ

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