第33回 外観からは解らないカサ・ミラ、カサ・バトリョの類似性

外壁では他の作品と演出に大きな違いを見せていたが、内部空間の実測で階段を中心にパティオ、タイル、部屋の間仕切りなどの細工、建家の二重構造、屋根裏階の放物曲線による類似性と、階段と煙突を合成した階段室の処理においてカサ・バトリョもカサ・ミラも姉妹の様に類似していると、その頃は感じていた。
しかも素材は煉瓦である。
カサ・バトリョでは内部は漆喰仕上げであるが、カサ・ミラでは煉瓦仕上げのままで煉瓦の組み方が良くわかる。
煉瓦の組み方は荷重のかかり具合で組み方が替わることはグエル地下聖堂でも見せているし、テレサ学院でもその様子が伺われる。
特に隔壁の場合は小口で積み上げ、場所によっては二重又は3重に合わせて隔壁アーチを組み上げることがある。

カサ・バトリョの外壁は、現在の持ち主であるチュパチュップスのメーカーによって管理されている。彼等がこの建物を商売として本格的に利用する為に新たな修復をすることになり、その最初の修復計画はガウディ研究室に来ていた。その頃はエレベーター室の小さな納まり部分の修復工事であったはずである。その修復計画は、一般の建築家に変わってから一階フロアーが大々的に補修された。その工事途中で技術的にキャンティレバーの部分で既存の梁を延長させて支持していたことも確認できた。

その外壁面の仕上げをよく見てみると、カサ・バトリョでは、カタルニアの神話に出てくるホルヘ聖人によるドラゴン退治のシーンとして解釈できる。更に7つの頭があるドラゴンとすれば、黙示録やギリシャ神話にも類似する。

「ギリシャ神話のヘラクレスの冒険」と「カタルニア地方の神話」を合成したシーンを建物全体で表現している、と解釈すると余計にわかりやすい。
しかも壁面タイルの円い皿は星座を表現しているという想定もできる。
またガウディの言葉、“科学者達による星座”というのも気になる。

既にギリシャ神話の一部は、星座によってシンボル化されている。フィンカ・グエルのドラゴンの門やサグラダ・ファミリア教会誕生の門の受胎告知シーン、上部にあるアーチにもその黄道12宮を利用し、向かって右側から乙女座、ライオン座、蟹座、双子座、牡牛座、牡羊座までの6種類がレリーフとして表現されている。
しかも同時期にカサ・バトリョが造られていることから、同じような星座のアイデアがあってもおかしくないということになる。
そこで星座マップをみると星の大きさをアルファから始めて8種類に分けているのに気が付く。私の実測からも10cmから30cmまでの8種類の皿があったことを確認している。
偶然にしては出来すぎである。
星座を見つけるには初めに大きな星座の位置関係と周辺の星座の配置からそれらの星座名を知ることができる。

この作業によってフィンカ・グエルと同じように、カサ・バトリョの外壁中央部分にヘラクレスとドラゴンの星座を読みとることができる。
他に破風の上部左から天秤、サソリ、射手座と並んでいる事に気が付く。
ところが中央上部の2カ所にバルコニーが無いのが府に落ちない。

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この記事を書いた人

実測家、建築家・工学博士

バルセロナに住みながらガウディ建築物の実測とその図面化を行う。特にサグラダファミリアの実測図 (1/50 の断面アイソメ図)には5年、グエル公園の全体立面図には8年の年月を要した。実測の過程で、ガウディ建築に込められたデザイン・構造・神話、さらに地域性やアイデンティティを縦横に読み解いていく。その他、研究を生かして1998年からユネスコ・フォーラムの招請を受けてベラクルスのサン・ホワン・デ・ウルワ城塞修復計画ワークショップをする。以来、全国において、ガウディ、実測、 歴史、コード、作図についての説明を60回以上の展示会・講演会、まちづくりワークショップ活動と共に進めて現在に至る。特にガウディの煉瓦構造とその素材を生かした応用として北海道江別市のモニュメントBT1をはじめとして、ガウディの生誕の町リウドムスでのアルブレ広場では日本とスペインの特性を生かした改修計画、ガウディのデザイン手法を生かした東京都府中市の北山幼稚園のデザイン・設計施工を手がけた。2015年にはバルセロナ建築士会での田中裕也の作図展やサロンデマンガの作図展、続いて2016年には、初めて銀座の渋谷画廊にてガウディ建築の作図展を行った。





1952年9月30日北海道稚内市生まれ

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