ガウディはオリジナルについて“奇異を求めず、日常の事を改善するのがよい”としている。
ガウディが利用するトレンカディスは単に装飾的な意味で利用してはいない。しかもそれがボールトの屋根や天井においては、その曲面の防水加工が必要となる。
もともとタイルを貼るというのは、水仕舞いとして利用されるので、防水機能を持たせるために利用される。トルコ風呂やローマ浴場でもモザイク・タイルが利用されていることから伝統的な素材とも言える。ローマのカラカラ浴場のモザイク・タイルは良く知られている。グラナダのアルハンブラ宮殿の浴場にもタイルが貼られている。
そういえば日本でも昔の銭湯の浴槽は、15mmから30mm程度のサイズの正方形のモザイク・タイルで仕上げられていた記憶がある。
浴槽の丸みを付けた縁も同じようにモザイク・タイルが張られていた。ところが既成の平面タイル仕上げにすると、曲面の曲率にもよるが通常は面が凸凹になってしまうので防水加工には不適当となる。
そこで面に合わせた仕上げ材としてできるだけ曲面を滑らか処理するために“破砕張り”にすることを考えたということになる。
その破砕仕上げでは、特に煙突部分では石、タイル、ガラス・ビン、陶器の皿までもガウディは採用して防水性を高めていた。
さらにそのタイルの釉薬面はガラス面となるために、場所によっては光りの反射もその特性として利用されている。
ガウディ建築の神話
破砕タイルの極めつけとしてフィンカ・グエルの中でオレンジの木を支える煉瓦造の片開き扉の支柱がある。
その目地には、細かな破砕タイルが嵌め込まれて光りが当たると宝石の様に輝いてくれる。
なぜ目地に細かな破砕タイルを張る必要があったのかは謎である。
目地への防水を兼ねたのか。
中央入り口の鍛鉄のドラゴンがその支柱に繋がれた姿で神話上のドラゴンとして見られていることから、幻想的な柱として演出しているということが想像できる。
ではその神話はなにか?
ギリシャ神話には、ヘラクレスの11番目の冒険としてドラゴンと戦うシーンがある。
金のリンゴが実る“ヘスペリスの園”を守るドラゴンが登場し、ヘラクレスと戦う。そしてヘラクレスはドラゴンを倒してそのリンゴを持ち出してしまう。守りきれなかったドラゴンは星にされてしまうのである。
その話を詩的にハシント・ベルダゲールが“アトランティダ”という本の中のヘスペリスの話として歌いあげているが、ギリシャ神話の原文と内容が若干違う。
ベルダゲールは、コミージャス侯爵をパトロンとしていた。また侯爵の経営していた客船アトランタの専属司祭でもあった。
その彼は、詩人として多くの作品を残している。
そしてグエルやガウディの友人でもあった。
しかし気になるのはこのベルダゲールの本では、ギリシャ神話のヘスペリスの園とは違ってオレンジの木としている事である。
植物図鑑からだとリンゴという単語はラテン語でMalumとなるが、オレンジはCitrus Aurentiumといって“甘い柑橘”と言う訳になり起源はインドとしている。