第20回 リズム感のある煉瓦のリング配列は馬の調教のための催眠効果を狙ったか?

そんなことから直感的に床の煉瓦配列が何かリズム感をもたらしている気がしたのである。
時々バルセロナにサーカスがやってきて馬に芸をさせるシーンでは、調教師が必ず、ホールの中心に立ってムチをもちバシバシ音を立てながら馬を円状に走らせる。煉瓦配列のリズムも馬を調教する方法かなと思い浮かべた。馬を調教するために音と、視覚的手段としては煉瓦リングにより、まるで催眠術にでもかけるようにして馬を馴らすことを考えたのかもしれないと思い浮かんだ。
調教場のリングは一見、装飾的な模様にも思えるが用途から考えて装飾をするだけの意味を持たないのは事実である。
むしろ機能や施工的問題からの解決手段であると推測できる。
通常であれば放射状に並べるだけで済むところをなぜそのように手間のかかりそうな並べ方にする必要があったのかが最初の疑問であった。
ガウディは“物の実現は法則に従うことで創造の法則である。体験は創造の承認である。”
という言葉を創造性について述べている。
ある日、古文書を調べていたら、馬を調教するという場所ではなく実際には馬車を置く倉庫として利用されていたことが、当時の写真からも確認できた。
とすれば後は施工上の理由から、この床リングのリズムが考えられることになる。

目次

馬車の倉庫に必要だった煉瓦リングの意味とは?

フィンカ・グエルの謎の一つであるこの床の煉瓦リングは、煉瓦による床仕上げとして耐久性を高める施工上の解決方法と考える。
煉瓦による床仕上げには幾つか手法がある。中でも稲や麦の先にできる針状の毛の生え方を模様にしたような“のぎ張り”はよく使われるが、ここではそんな並べ方はしていない。
全てが小端立てによる配列になっているわけだから床としての強度をそれで高めている事は解る。初めの開口部でも“小端立て”による放射状の配列の後に小端をリング状に並べている。

キューポラ
キューポラ

次に円心から離れるに従ってなぜ二重のリングや三重配列のリングでなければならないのかが謎となる。
ここでは桝樋が中央にあるために水勾配は中央に傾いている。しかし煉瓦の敷き詰め方から単なる水勾配のための水切りとして考えたというわけではないはずだ。
そこで放射状に全ての煉瓦を並べたらどうなるかと想定してみた。すると煉瓦目地に大きなムラが目立つようになる。とすれば目地むらを避ける手段としての敷き詰め方を工夫していることが理解できることになる。

調教場のドームの構造を見ると同じように煉瓦で作られている。
手法としてはカタラン語で“マオ・デ・プラ”(平手張り)という呼び名で煉瓦を並べる方法である。これは煉瓦を平手張りで並べてしかも“シントレール・デ・リストン(棒)とかコルドン(紐)を軸にした伝統工法でボールトを造りあげる。
この方法は、ドームがかかる内部空間の中央から紐又は棒をドームの半径ほどの長さで回転させながら煉瓦を組んで中央で閉じる。
勿論その為にドームを支える壁が立ち上がっていなければならない。

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この記事を書いた人

実測家、建築家・工学博士

バルセロナに住みながらガウディ建築物の実測とその図面化を行う。特にサグラダファミリアの実測図 (1/50 の断面アイソメ図)には5年、グエル公園の全体立面図には8年の年月を要した。実測の過程で、ガウディ建築に込められたデザイン・構造・神話、さらに地域性やアイデンティティを縦横に読み解いていく。その他、研究を生かして1998年からユネスコ・フォーラムの招請を受けてベラクルスのサン・ホワン・デ・ウルワ城塞修復計画ワークショップをする。以来、全国において、ガウディ、実測、 歴史、コード、作図についての説明を60回以上の展示会・講演会、まちづくりワークショップ活動と共に進めて現在に至る。特にガウディの煉瓦構造とその素材を生かした応用として北海道江別市のモニュメントBT1をはじめとして、ガウディの生誕の町リウドムスでのアルブレ広場では日本とスペインの特性を生かした改修計画、ガウディのデザイン手法を生かした東京都府中市の北山幼稚園のデザイン・設計施工を手がけた。2015年にはバルセロナ建築士会での田中裕也の作図展やサロンデマンガの作図展、続いて2016年には、初めて銀座の渋谷画廊にてガウディ建築の作図展を行った。





1952年9月30日北海道稚内市生まれ

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