第65回 波打ち捻れる、カサ・ミラ屋上階の構造物

ガウディはサグラダ・ファミリア教会に対して“聖家族教会は贖罪(しょくざい)であって、これは奉仕によるものでなくてはならない。もしそれを与えられなければ弱い作品となり完成しない。”として彼自ら奉仕の姿勢を見せた。

ガウディ建築の特徴の1つに立体十字架がある。
これは四本腕を持つ十字架でどこから見ても十字架に見えるように考案したオリジナル・デザインといえるだろう。サグラダ・ファミリア教会そのものが立体十字架であり、しかもキリストの塔も四本腕の立体十字設置を計画してサグラダ・ファミリア教会主任建築家プーチ・ボアダとルイス・ボネットの指導の下にラモン・ベレンゲール氏が1950年以降に作図したのである。

そしてカサ・ミラの中にもお馴染みの立体十字架が見られる。
屋上階段室の尖塔がそれであるが、同時に通気口としての役目を果たしている。
建築許可申請図では、ファサード面に塔が付けられ、その上に立体十字が納められる計画であった。カサ・バトリョの立体十字架との大きな違いは、四本腕が非常に短く、しかも立体十字架が階段室の形状に溶け込むようになっていて、それ自体が通気口としての機能に変身するのである。どうして立体十字の腕が短くなったのか気になる。

屋上階の階段室の平面形態は円形、八角形、六角形の三種類、そして、煙突は正方形と矩形の二種類となる。
私の実測では、この彫刻的な階段室の高さは約6mとなる。
構造体は、煉瓦によって放物回転体状に作られ、破砕タイル仕上げになっている。
しかしこの破砕タイル仕上げは従来のものとは違う。空き瓶や石などを破砕にしてよりテクスチャーを強調している。
これら破砕タイル又は破砕仕上げをカタラン語ではトレンカディスという。
この単語1つで破砕仕上げを意味しているのである。
つまり、タイルに限らずあらゆる素材を貼り付けることができるという意味では、コラージュに似ているのかも知れない。しかしどうして鋭いガラスの破片で煙突の仕上げをする必要があったのだろうか。
ガウディの作品では素材の使用方法に至るまで、それなりの理由があると信じている私には疑問となる。

外部に面している階段室はそのトレンカディスとなっているが、パティオ側の階段室は防水モルタル仕上げになっている。
つまり道路側と内側とで仕上げを変えていることが解るが、理由は解らない。
さらに疑問は増す。
屋上階は、波の様に起伏し、何故に煙突や階段室は捻れるのだろうか。
ある日のこと、屋根裏階にあったアパートの住民から面白い話しを聞かされた。
風の強い日には煙突に風がぶつかり不思議な音が聞こえると言っていた。
しかも煙の上昇は捻れることで自然現象により加速する。煙突の形状を螺旋にすることでその上昇気流は捻れを増し、加速し、煙突内部は真空状態になり煙や空気を吸い上げるような効果を産み出すと言われている。
できればその風洞実験もしたいものだ。
いずれにしてもその形状特性から笛のように音を発生することは想像できる。

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この記事を書いた人

実測家、建築家・工学博士

バルセロナに住みながらガウディ建築物の実測とその図面化を行う。特にサグラダファミリアの実測図 (1/50 の断面アイソメ図)には5年、グエル公園の全体立面図には8年の年月を要した。実測の過程で、ガウディ建築に込められたデザイン・構造・神話、さらに地域性やアイデンティティを縦横に読み解いていく。その他、研究を生かして1998年からユネスコ・フォーラムの招請を受けてベラクルスのサン・ホワン・デ・ウルワ城塞修復計画ワークショップをする。以来、全国において、ガウディ、実測、 歴史、コード、作図についての説明を60回以上の展示会・講演会、まちづくりワークショップ活動と共に進めて現在に至る。特にガウディの煉瓦構造とその素材を生かした応用として北海道江別市のモニュメントBT1をはじめとして、ガウディの生誕の町リウドムスでのアルブレ広場では日本とスペインの特性を生かした改修計画、ガウディのデザイン手法を生かした東京都府中市の北山幼稚園のデザイン・設計施工を手がけた。2015年にはバルセロナ建築士会での田中裕也の作図展やサロンデマンガの作図展、続いて2016年には、初めて銀座の渋谷画廊にてガウディ建築の作図展を行った。





1952年9月30日北海道稚内市生まれ

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