第21回 三層構造の煉瓦は、組み方による強度確保と自重による歪み止めの役目を兼ねる

煉瓦でボールト又は膜を施工する場合は三層の煉瓦にして組み上げるのが通常である。
しかも煉瓦の目地方向を層によって変える。
膜における煉瓦の層を重ね合わせる場合、層の目地方向は他の層と同じあってはならないのが基本である。もし、目地を芋目地のように同じか又は少々ずらしただけでは荷重に対する反力を充分に示すことができず、煉瓦と煉瓦を繋げている接着面つまり目地部分における連鎖亀裂が生じやすい。
その為に少しでも目地の耐力的弱点を補うために、目地方向はできるだけ交差するようにした三層の平手張りでボールトが仕上がる。
その目地の組み方を考慮しながら、初めは速乾性の石膏を利用して一層目の膜を作り、同時に二層、三層目は石灰モルタルを利用してボールトの耐久性を高める。
つまり格子を三層に重ねる場合にその縫い目を交差させることで、面としての強度を高めるという特性をこの煉瓦の貼り方によって得ることができるのである。

現在では、煉瓦も形にバリエーションができて、さらに焼成温度も高く素材自体の強度も高くなってきている。それによって従来の三層から二層で仕上げることもある。

これらの煉瓦施工でもっと信じがたいことは、ある程度までドームが仕上がると、その歪み止めとしてセメント袋や砂袋が置かれて歪みを抑えるということだ。その話を伝統職人から聞き、現場を見たこともある。
信じられないような施工法であるが現在でもスペインでこの伝統工法を利用する場合は、昔と同じような工法を継承しているのである。

確かに、施工中に職人達は階段のボールトでも同じように荷重のかけられるものを載せる場面をよく見ることがある。

このような視点からフィンカ・グエルの調教場の場合を検討すると、直径約10mの大ボールトの施工では、このような手法を三ヵ所の煉瓦造のリングでセメント袋の代用として機能させていることになる。つまり、飾りではなくボールトの歪み止めとしての機能と越屋根窓のメンテを考えた階段としての役目も兼ねていることが理解できるようになる。
このように巧みな煉瓦によるボールト施工に感心させられるが、ガウディの建築技術の巧妙さはそれだけではなく数え切れないほどある。
実はそれが私の研究を続けている原動力になっている一つの理由になっている。

ガウディは壁の構造について“経験的に伝導性の悪い成分で詰められた壁は、空気が詰まった塀や空隙の塀より断熱性が高い。詰め物は、スポンジ性(この場合は腐葉土)で密度が低い(塀の仕上げ面に僅かな水平力がある)いずれにしろカンナ屑又はコルク、砂利は更に良い。
と言っている。

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ガウディの破砕タイル

フィンカ・グエルの外壁の仕上げは鱗状のパネル仕上げになっているが、これは30x60というタイルを利用した北側外壁面仕上げとしての断熱防水を兼ねている。
東南の外壁は、タイル仕上げがされていないがその代わりに植物模様のプリントがされている。
そんな中でフィンカ・グエルの構造体は、“タピアール”という土蔵又はアドベに似た日干し煉瓦とも言えるようなカタルニア独特の構造体になっている。

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この記事を書いた人

実測家、建築家・工学博士

バルセロナに住みながらガウディ建築物の実測とその図面化を行う。特にサグラダファミリアの実測図 (1/50 の断面アイソメ図)には5年、グエル公園の全体立面図には8年の年月を要した。実測の過程で、ガウディ建築に込められたデザイン・構造・神話、さらに地域性やアイデンティティを縦横に読み解いていく。その他、研究を生かして1998年からユネスコ・フォーラムの招請を受けてベラクルスのサン・ホワン・デ・ウルワ城塞修復計画ワークショップをする。以来、全国において、ガウディ、実測、 歴史、コード、作図についての説明を60回以上の展示会・講演会、まちづくりワークショップ活動と共に進めて現在に至る。特にガウディの煉瓦構造とその素材を生かした応用として北海道江別市のモニュメントBT1をはじめとして、ガウディの生誕の町リウドムスでのアルブレ広場では日本とスペインの特性を生かした改修計画、ガウディのデザイン手法を生かした東京都府中市の北山幼稚園のデザイン・設計施工を手がけた。2015年にはバルセロナ建築士会での田中裕也の作図展やサロンデマンガの作図展、続いて2016年には、初めて銀座の渋谷画廊にてガウディ建築の作図展を行った。





1952年9月30日北海道稚内市生まれ

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