第18回 無限に開かれる幾何学の父-放物曲線

放物曲線の幾何学的な描き方については幾つか方法がある。中でも代表的な作り方は、三角形の二辺に交差する直線が移動することでその形が描かれる。
自然物理では物体の落下運動の軌跡によって描かれる線も放物曲線状となる。
もう一つは、日常よく目にする鎖や紐の両端を持ってを吊り下げた線も同じ放物曲線状になる。この放物曲線状の形の線が質量を持ったときに“カテナリー”という。この線は等分布荷重という一律同じ重さが線状に並んだときに生じる線形であって、関数が含まれる曲線であるとされていることは故松倉保夫物理学博士による“ガウディニズモ”の本でも同じようなことを説明している。
ガウディの手記の中に“幾何学から生まれる形は非常に卓越性があり明確である。形がより完璧であれば装飾はいらない。彫像による演出は必然的なディテ-ルの為の浮き彫りであって装飾ではない。”とある。
ガウディの作品は、大胆な装飾的建築に見られがちである。ところがその裏には建築機能の面からもオーナーのアイデンティティーが脈付いている。
中でもその建築機能に重要な意味を持つカテナリー曲線は、形態的に放物曲線に類似した形とされていることから、作図としては、この幾何学上の無機質な放物曲線の作図で描いてもそれほどの違いはない。
日本の古建築においても当時の大工や土工がお城の土塁部分においてカテナリーの手法を利用していることは知られている。例えば軒先において、宮大工が墨壺の糸で幾何学的作図法によって軒先の反りを描いていたことから、日本建築の中にも放物曲線が利用されているのである。
つまり今までは単なる直線美として見られていた日本建築にも、技術的解決としてこの放物曲線が含まれ、さらに優美な日本建築を演出していることになる。
機能からくる優美さは“機能美”と言われ装飾概念ではない。
彫刻やレリーフも建築的演出機能を持つと、単なる装飾ではないということになる。
また形を描く線についてガウディは“曲線(閉鎖)は限界を意味し直線は無限を意味している”といっている。
しかしその曲線が放物曲線であればこれも無限に開かれる曲線と言えるだろう。
形として直線は、むしろ人間社会が造りあげた人工的な線であり、曲線は自然がもたらした線であるとすると理解しやすい。
ガウディは“放物曲線は幾何学の父”として彼の建築作品の至る所にその曲線を覗かせている。

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可笑しな階段

千鳥階段
千鳥階段

その幾何学的示唆から縦軸を繋ぐフィンカ・グエルの階段を見ると、尋常ではないことに気が付く。むしろよそ見をすると段を踏み外す恐れも十二分にあるような階段である。

屋上に連絡するこの階段と調教場にある二カ所の階段は、矩形の踏み板ではなくその矩形を対角線上に切って同じ面積の中に2段の段数を作ることで階段の専有面積を節約できる珍しい階段である。

そのために左右の踏み込みを明確にしていなければ確実に踏み外す階段で、足元がふらつきそうになるので私はこの階段を“千鳥階段”と名付けた。勿論こんな階段は安全第一の日本では見られないだろう。
人ごとのように説明している私も実はこの階段を利用して足を滑らせたことが何度かある。

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この記事を書いた人

実測家、建築家・工学博士

バルセロナに住みながらガウディ建築物の実測とその図面化を行う。特にサグラダファミリアの実測図 (1/50 の断面アイソメ図)には5年、グエル公園の全体立面図には8年の年月を要した。実測の過程で、ガウディ建築に込められたデザイン・構造・神話、さらに地域性やアイデンティティを縦横に読み解いていく。その他、研究を生かして1998年からユネスコ・フォーラムの招請を受けてベラクルスのサン・ホワン・デ・ウルワ城塞修復計画ワークショップをする。以来、全国において、ガウディ、実測、 歴史、コード、作図についての説明を60回以上の展示会・講演会、まちづくりワークショップ活動と共に進めて現在に至る。特にガウディの煉瓦構造とその素材を生かした応用として北海道江別市のモニュメントBT1をはじめとして、ガウディの生誕の町リウドムスでのアルブレ広場では日本とスペインの特性を生かした改修計画、ガウディのデザイン手法を生かした東京都府中市の北山幼稚園のデザイン・設計施工を手がけた。2015年にはバルセロナ建築士会での田中裕也の作図展やサロンデマンガの作図展、続いて2016年には、初めて銀座の渋谷画廊にてガウディ建築の作図展を行った。





1952年9月30日北海道稚内市生まれ

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