ガウディは“物が美しくあるためには、その形に余分な物があってはならず、与えられた条件に役立つ素材として考えることである”と手記の中に記している。
この千鳥階段は、19世紀初めのフランス建築家 ビオレ・ル・デュック による建築辞書で、フランス・ゴシック城塞建築の詳細として記されている。一気に転げ落ちそうな使いにくそうな階段だが、しかし機能的には、城塞建築に向いているかも知れない。上がりにくくすることも、攻めてくる敵への防御対策とする城塞階段としては相応しいような気もするが、これも用途が限らてしまっておかしな階段となる。
ところが、実際に利用すると足の踏み込みさえ間違えなければ、通常の階段と全く同じく使いやすくなるのも不思議である。
他に屋上にある手摺りでは普通煉瓦(29x14.5x4.5)(Ladrillo Comun)と薄煉瓦(29x14.5x1.5)(Rasilla)の、巧みな二種類の煉瓦の組み合わせからなる六角ユニットを基準にした幾何学構成で、屋上の手摺りを透かしで組み上げている。
これも見事に煉瓦を利用した細工である。
フィンカ・グエルのリング
平面計画では、正方形の調教場と矩形の馬小屋、そして八角形平面に二つの正方形が付けられている門番の家で構成されている。
屋根は、煉瓦ボールトによって仕上げられている。
その調教場と門番の家の台所サロンと、寝室の天井と屋根は一体となり、ボトルの頸と同じような形で越屋根が付けられて、通気口や採光としての尖塔飾で処理されている。
これらのボールトを実測するといつものように疑問も浮かび上がる。
始めに調教場の床仕上げに使用されている煉瓦の配列に着目する。
すると不思議な煉瓦の組み合わせに気が付く。今までそんな詳細には誰も触れていない。ガウディも勿論それには触れていない。
この些細な煉瓦の組み方における詳細に、ガウディの技術が隠されているというのも事実である。
この中央の桝樋における開口部の仕上げは、46個の煉瓦を小端立て配列にされ、次に長手小端一列でリング状に並べ、さらに長手小端だてによる放射状の並びと次にまた一列の小端立てをリング状に並べるといった具合になっている。リングの組み方が中央から1、1、2、3、2、2、3、3、3、2、3、3、3…と何となくリズムカルに壁まで続く。
音響を考慮した仕掛けがあるのか?
まずそのリングの組み合わせによる床仕上げに興味が沸いた。
初めはスペインにおける詩のリズムかなと思った。まさか馬に詩を朗読して調教する方法など聞いたこともないのでそれは説得力に欠ける。しかし部屋の構造体がキューポラになっているので、中央に立って手を叩くと“泣き龍”のように反響してくることから、音に関する仕掛けとこのリズムカルなリングとの間に何か謎が秘められているではとも考えた。
ガウディの建物では、グエル邸中央サロン、グエル公園の多柱室、サグラダ・ファミリア教会鐘楼などのように音響も考慮されていることから、この部屋もそれなりの仕掛けを取り入れたのではと考えたのだが。