第15回 自然の本の導きでガウディと出会い、 フーテンのように実測研究を続ける

ガウディは創作への手法として“自然は偉大な本としていつも開かれている。それらが理解できるように努力するとよい。他の本はこれから生まれたもので人の誤解や演出によるものである。それには二通りの見方がある。 1つは道徳と宗教の教義で、もう一つは偉大な自然の本により事実を通しての導きである”と説いている。

寸法の在処と他のモニュメントと比較することで更に時代を遡ることになる。
この作業も創作への応用性という概念に繋がるものなのかと問いかけながら、当時の寸法の使われ方とモデュールの推定から建築のボリュームが見えるような気がしてならない。まさにデジタルの世界からアナログな世界を覗けることに面白いほどの好奇心が沸騰する。同時に歴史的背景の裏付けを求めるために参考文献を調べることで、更に今まで知られていなかったマヤとインカ文明の建築の謎にも直接触れる機会を得た。当時の臨場感をも感じ、プリミティーブな創造性を感じる。
創作の基本が“経験”とすれば歴史の中を覗くことも素晴らしい経験と創造性に繋がり、モニュメントの調査も経験の応用性として見ることができる。そのシミュレーションができればこれ以上の幸せはない。
測ることで空間の大きさが具体的になる。
しかも他の作品との比較も容易にしてくれる。
亡霊に取り付かれたように歴史上の建築を追いかけ、次第にガウディ建築から離れた世界にも踏み込むようになる。だがそれは横道に逸れているのではない。
終局的には建築のルーツに溯ることで、用途が副産物を生み出すかのように建築に影響するだけのことであると思えるようになる。
そんな未知の世界に入り込みながら、さらに当時の建築状況が見えてくるというのも面白い世界である。

そのお陰で、ガウディの実測調査による経験が他のモニュメントにでも利用することができると実感し、新たなデーターと視点が生まれることも経験する。
珍しい建築詳細も知ることができることは、今まで以上にリッチな建築知識を得られるという好奇心を蘇らせる。

中でもインカ文明の「高度な建築技術と、文字がないとされていた文化とのギャップの謎」も含めた研究テーマもライフ・ワークの中に舞い込んでくる。
それらを追求するために、始めに建築を分析しながら当時の建築技術と生活レベル、都市の変遷等を比較する。さらに人類学的分析も同時に進めることで言葉と生活空間の二面で当時の状況を洞察する。
この手法も実測から学び得た収穫の一つである。

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何処に勤めているかと尋ねられることもある

その「自然の本」を参考に、街の移り変わりを眺めながら、サグラダ・ファミリア教会の実測をして23年、その前の実測も入れて合計26年目のバルセロナ在住ということになる。始めの予定は軽く3年程度でガウディ研究ができればと高を括っていた。
勿論、はじめの頃は、現在の都市現象など予想することもなく、更にガウディとは直接関係ない世界の建築遺産にまで触れての実測作業ができるというのも夢の世界であった。

マチュピチュの窓
マチュピチュの窓

これも何かの縁と思いながらガウディ建築の実測と作図に専念している。
実測研究はあくまで私個人の研究として好奇心の赴くままに続けているが、まさしく放浪的な限りのない世界である。

時々人々からどこに勤めているのかと尋ねられるがその度に、個人研究として続けていることでフーテンのような立場であるという感覚になり、とても不思議に感じるのも事実である。

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この記事を書いた人

実測家、建築家・工学博士

バルセロナに住みながらガウディ建築物の実測とその図面化を行う。特にサグラダファミリアの実測図 (1/50 の断面アイソメ図)には5年、グエル公園の全体立面図には8年の年月を要した。実測の過程で、ガウディ建築に込められたデザイン・構造・神話、さらに地域性やアイデンティティを縦横に読み解いていく。その他、研究を生かして1998年からユネスコ・フォーラムの招請を受けてベラクルスのサン・ホワン・デ・ウルワ城塞修復計画ワークショップをする。以来、全国において、ガウディ、実測、 歴史、コード、作図についての説明を60回以上の展示会・講演会、まちづくりワークショップ活動と共に進めて現在に至る。特にガウディの煉瓦構造とその素材を生かした応用として北海道江別市のモニュメントBT1をはじめとして、ガウディの生誕の町リウドムスでのアルブレ広場では日本とスペインの特性を生かした改修計画、ガウディのデザイン手法を生かした東京都府中市の北山幼稚園のデザイン・設計施工を手がけた。2015年にはバルセロナ建築士会での田中裕也の作図展やサロンデマンガの作図展、続いて2016年には、初めて銀座の渋谷画廊にてガウディ建築の作図展を行った。





1952年9月30日北海道稚内市生まれ

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